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『ありがと。』  作者:GRS

 どこにでもあるような猫の額ほどの広さの公園。
 休日の暇に飽かして散歩に出た私は、住宅地の片隅にあるその公園へと自然に足を向けた。
 天気のいい昼下がりの公園には子供たちの姿があふれ、所せましと走り回っているのを見ることができた。元気のよい笑い声が、退屈しきった私の心を和ませてくれる。
 私はしばらくそれを眺めていようとベンチに向かい、その途中でふと木の枝に一人の少女が腰掛けていることに気がついた。少女は遊びまわっている子供たちよりはすこし年上で、おそらく10か11才くらいだろう。くすんだ金髪と、翠色の瞳が印象的な、欧州系の子供だった。長袖の白いブラウスを着ていて、薄いピンク色のスカートを穿き、髪には茶色のカチューシャをつけている。色の白い足には、白い靴下と小さな黒い靴。
「Hello」
 私が側へ行って声をかけると、
「こんにちは」
 流暢な日本語で返答が返ってきた。
「日本語が分かるんだ。すごいね」
 私が笑うと、少女はそれにはとくに面白くもなさげに遊んでいる幼子達に視線を向けた。
「すごくないよ。言葉が分かるだけじゃ、ぜんぜんすごくないよ」
 なんだか、元気がない声だった。
「どうしたの?」
 と聞くと、
「分からない」
 首を振る。
「何が分からないの?」
 と聞くと、
「何が分からないのか分からないのが分からない」
 ……何が言いたいのかも分からない。
 なんだか難しい子に関わっちゃったかな、と、私は少しだけ話し掛けたことを後悔した。一人でこんな所に腰掛けている子なんだし、さぞかし複雑な事情を抱えているのだろうから。
 いや、そもそもその子は普通の子供とはだいぶ違っていた。声の調子や口調こそ子供っぽいが、もの憂げな表情や哲学めいたことばはとても大人びている。どこの子なのだろう、その見知らぬ外国の子は公園の騒がしさから取り残されたように木の枝のうえで静かに笑った。
「エメリーは、自分じゃなにをすればいいか決められないの。みんなが何を望んでるかが分からないと、何もできないの」
「え?」
 そして、私はそんな少女の言動に翻弄されるようにただぽかんと口を開けていることだけしかできなかった。自分で自分のするべき事を決められない人間がいる、という話は確かに聞いたことがある。でも、この子のいう「決められない」というのはそれとはすこし違っているように思えた。理解したというわけでなく、ただなんとなくそんな気がしただけ。
「2001年、春。エメリーは行き場をなくしちゃいました。どうしたらいいですか、誰か教えてください、まる」
 私にではない問いかけ。つうと空を見上げて、自分を『エメリー』と呼ぶその女の子は、ため息を吐くようにそれを言葉にした。
「人間って、難しいな。いまに満足してないってことばっかり言って、じゃあどうしたいのかがないんだもん」
「?」
「でも、エメリーも分かってる。どうしたいかなんて、人間にも分からないんだよね」
 足をブラブラさせて、仕方なさげに笑う。その口振りはどこか他人事で、そう、まるで人でないような、そんな印象を受けた。
「どうしたらいいかなんて、結局自分で見つけなきゃいけないから。どうしたいかなんて、そんな簡単に言葉にならないよね」
 少女は、優しげに微笑みを浮かべていた。
「分かってるんだけど、エメリーには、それが理解してあげられないから、何にもできないんだ」
 私にも分からない。この子が何を望んでいるのか。私がこの子に何をしてあげられるのか。なんとなく、この子がなにをそんなに必死に考えているのかは漠然と理解できたが、私はそれに対して「こうすればいいんだよ」という答えを持っていなかった。なにより、私にはその普通でない女の子が何者なのかが理解できなかった。
「どうしてそんなことを考えてるの? まるで人間じゃないみたいな言い方をして」
 それが分からなければ、どうしようもないと思って、私は問い掛けた。
「うん。エメリーは、ロボットだから」
 そう言って、エメリーがブラウスの袖を捲ると。
 ……かしゃん。
 小さな音を立てて腕が縦にふたつに割れ、その間からびっしりとならんだ端子が飛び出した。
 それだけではない。内部をむき出しにしたその腕の中にはにぶい光沢を放つ機械群が詰まっていた。
「え……」
 突然のことに、言葉に詰まる。世間を騒がしているようなロボットたち……某日本企業が作った、人型の白い二足歩行ロボットや、某電子機器メーカーから発売されている、愛玩動物のようにふるまう犬型のロボットなど……そんな彼らの姿が脳裏に浮かんでは消えていった。
 そう、目の前にいるそれは、彼らとは違う。言葉をしゃべり、人間と自律的にコミュニケーションをとる、本物のアンドロイドなのだ。私も電子機器業界にいて、プログラムと言うものをすこしは聞き知った人間だから、その完成度がまさに奇跡の産物であろう事は容易に想像がついた。
「こんなことって……」
「驚くのも無理ないけど。ほんとのことなんだよ」
 エメリーが、端子を引っ込めてブラウスの袖を元どおりに直す。それから彼女はにっこりと笑った。
「だから、エメリーは人間が幸せに生活できるようにお手伝いするの。そのために造られたから」
「でも、どうして子供の姿を……まさか、製作者の趣味?」
「あはは、それも理由の一つかもしんない。でも、とりあえず、技術的に見ても、この姿が妥当だったんだよ」
 と、ひとしきり笑い、
「理由1、サイズと重量の制約。これ以上大きなメカニズムを使うと負荷がかかりすぎて脚部パーツが破損しちゃうんだ」
 エメリーは簡単に説明してくれた。それは言われてみればそのとおりかもしれないと思える内容だった。
「理由2、記憶装置の制約。体内物理記憶媒体の容量上すこしでも人格モジュールを簡略化する為に、子供の人格が選ばれたの」
「うん、分からないでもないかな」
「理由3、容姿の制約。さっきの二点を考慮に入れても、やっぱり人間の姿が視覚的に一番恐くないってこと」
「う〜ん、思ったより考えられてるわけか。考えた人って、けっこうすごいのかも」
「でも、理由はそれだけじゃないよ。エメリーが子供の姿をしてるのは、もっと大事な意味があったからなんだよ」
 ゆったりとした口調で唄うように告げると、エメリーは枝から、意外なほど身軽に飛び降りた。
 ただ、彼女が坐っていた枝は、ふつうの子供が乗っていたときとは比べ物にならないくらいにおおきくゆれた。

 両足をそろえて着地したエメリーは、それからくるっと振り返って私の目をまっすぐに見つめた。
「それは、ずっと未来の、ずっと遠い、うんと遠い夜空のお星さまの向こうの、それからまだちょっとだけ先の国のお話です」
 そんな風に、童話を読むように空想めいたことをいう。
「シグニア、と呼ばれる惑星がありました。この地球を離れた人たちが、新しい大地として選んだ星のひとつです」
 けれど、エメリーの目は少しも笑っていなかった。そしてその目が私に教えてくれた。
 その話が、エメリーにとっては、本当にあった、『過去』なのだと言うことを……。


 それは、ずっと未来の、ずっと遠い、うんと遠い夜空のお星さまの向こうの、それからまだちょっとだけ先の国のお話です。
 シグニア、と呼ばれる惑星がありました。この地球を離れた人たちが、新しい大地として選んだ星のひとつです。
 シグニアはすこしだけ地球よりも少なくて、地球よりもすこしだけ緑が多い、とても住み心地のいい星でした。地球に住むところがなくなって、宇宙へ飛び出した人々は、自分たちの幸運を喜び、美しいその星にみんなで移り住みました。
 そして人々はすぐに平和で、みんなが仲のよい、とてもすばらしい国が作りました。みんなが、本当に心から平和を謳歌しました。
 そこには害になるような先住生物はいませんでした。それはすばらしいことでした。
 人々が持ち込んだ地球の動植物も、その星の環境に適応しました。それもすばらしいことでした。
 人々はそこが地球に変わる楽園であると信じて、町を作り、楽しく暮らしていました。
 ……でも、ある日、誰かが、何かがおかしいといいだしました。
 誰かがいいました。これほど環境のいい星に、なぜ知的な先住生物がいないのかと。
 誰かがいいました。何故この星はまるで最初から自分たちが住むようにできていたように、なにもかもが人間にぴったりなのかと。

 その答えは、すぐに分かりました。
 なぜなら、ほんの偶然から、ひとりの住民が、どう見ても地球の技術で作られた、とても大きな機械をみつけたから。
 半分土に埋まるようにして、その機械はシグニアで一番広い海の中に沈んでいたのです。それは、ずっとむかしにおなじように、移り住める星を探しに地球を飛び立った一隻の宇宙船でした。
 みんなが驚き、その船は発見されてから何日もたたないうちに引き上げられました。
 そして、知ったのです。その船のカメラが記憶していた映像から、かつてのシグニアの荒れ果てた姿を。
 宇宙船のコンピュータはもう機能を停止していました。けれど、その船がこの星にたどり着いたとき、そのコンピュータはまだ動いていた事も、調べてみて分かりました。宇宙船の中で、太陽風を浴びつづけた結果、人々のほとんどが病気になってしまっていたことも。その人間たちを救うには、なによりも重力のある大地と、豊かな自然が必要でした。
 そう、その星は人間を助けようと、コンピュータが機能のすべてを使って環境を作り替えたものだったのです。
 惑星は姿を変え、人間がくらしていける星になりました。けれど、それにはたくさんの時間が必要で、それが整ってから幾日もなく、人間たちはみんな死んでしまったことも、記録にのこっていました。
 その記録は、だれが残したのかも分からないことばで締めくくられていました。
『I'm sure they will be coming someday, so I must defend here still. Goodnight, children of the Earth...and me.』
 記録がそれ以降のこっていなかったのは、それを最後にコンピュータが停止していたからでした。
 人々は、自分たちが楽園だと信じた場所が、先人たちと、一台のコンピュータの墓場であったことを知ったのです。
 彼らは先人たちの死を嘆き、そのコンピュータの、それが動いていいるうちには報われなかった努力に深く感謝するようになりました。
 それから、それがコンピュータを復元しようという動きに変わるまで、長くはかかりませんでした。
 人々はいろいろな知恵と意見を出しあい、そして、ひとつの意見で一致しました。……実際に自分たちがたどり着き、ここで暮らしているのだということを見せなければいけない、そして、できるかぎり一緒に暮らしていける姿にするべきだ、と。
 最初はどこかの町の中央に施設を作ろうと計画されていたそれは、あまりに立候補地が多すぎて決められず、ついに自分で動き回れる足が必要だと言われるようになっていました。
 さらにその星に住む女性たちは絶対にきちんとした顔がなくてはいけないと、そうでなければどこに感謝のキスをしていいか分からないから、と言いました。
 さらにある政治家はこの星の開拓者との会見はかならず歴史に残るから、きちんと写真に残るように星の大統領と握手できる手がなければいけない、と注文を付けました。
 とにかく注文ばかりが山積みで、開発に携わった博士たちはこぞって頭を抱えて「もうかんべんしてくれ」と言うありさまでした。そして、実際それは簡単なことではありませんでした。
 たくさんの失敗と、たくさんの改良を繰り返し、何十年も掛けてようやくできあがったそれは、もう二度と造れないだろうとだれもが思ったほど精巧なメカニズムを備えていました。出来上がったそれは、とても可愛らしい女の子の姿をしていました。
 人々は、その精巧なロボットに、最初から決めていたあの宇宙船のコンピュータの名前を付けました。
 自分たちにこの星をプレゼントしてくれたことの感謝を込めて。
 なによりその子が、ずっと未来まで、人間をたくさん幸せにしてくれる『希望の子』なのだと信じて。

 エメラルド、それが彼女の本当の名前です。けれどちょっぴり本人はあっちこっちでもてはやされるその名前がおっくうでした。
 だからその子はいつも自分のことをこう呼ぶのです。

 エメリー、と。

「というわけで、エメリーはそんないきさつでこんな格好してます、以上」
 にこにこわらって、エメリーは自分の話を締めくくった。
「うーん、にわかには信じがたい話だけど、ロボットだと言うことだけは間違いないし」
 私はそう唸るしかない。その未来のロボットがどうしてここにいるのかも分からないし、どうやってきたのかを聞いたところで、タイムマシンを使ってやってきたとかいう信じがたい話をされるだけだろう。どちらにせよ、私にはエメリーの話が本当かどうか確かめる術などないのだから、議論しても無駄なような気がした。
「でも、そんなすばらしいアンドロイドでも、どうしていいのか分からないときってあるんだ」
 と、聞くと、
「ううん、そうじゃないよ。単純なら、やるか、やらないか、それだけしかないけど、複雑だとそうじゃないから」
 そんな答えが返ってきた。
「どこまでいったって、回路なんて二進数より高度な次元は理解できないのに、おかしいよね」
「だけど、それなら自分で何をしたいのかを決めればいいんだってことも、分かるんじゃないの?」
 質問を変えると、
「分かるよ。分かるけど、エメリーはそういう風にできてないから」
 エメリーは当たり前のことのように言って笑った。
「勝手なことを考えて動く機械は、危なすぎるよ。機械が何かを望むって事は、人間が何かを求めるのとは違うんだ」
「難しい事を言うんだね。私には、どう違うのか分からない」
「うん、分かる。けど、ぜんぜん違うよ。ロボットは機械で、機械はからくり。からくりは、人間にとって便利じゃなくちゃ」
 やはり難しい。難しいけれど、言いたいことは理解できそうだった。
「つまりそれは、ロボットは人間の為に働くものだって事?」
 私が首をひねりながらいうと、エメリーは穏やかに目を細めた。うまく答えられたとは思わなかったが、一応理解しようとしていることは伝わったらしい。
「ちょっとおしいけど、はずれ。答えは、ロボットに、人間が望まないことを望ませちゃったら、人間の為にならないって事」
「ああ、そうか」
 と、はじめて私もそれが理解できた。そう、エメリーはロボットなのだ。どこまでいっても、機械でなくてはいけない。そして、機械が機械らしく人間の暮らしに役立つものでありつづける為には、そういう風に人間がそれを作り上げておかなければならないと言うことなのだ。
「あ、自分自身が望みを抱くという機能プログラムは、持ち合わせていないんだ」
「あたり。そんな余計な機能は、ロボットにはいらないよ。そんな人間に刃向かいかねない機能なんて、載せるだけ損だよ」
 たしかにそれは合理的だ。しかし、自分にない機能をきちんと説明できるという事に、私はすこし違和感を覚えた。
「でも、そこまで理解できるのに実行できないというのも、妙な話だとおもうんだけど……」
「みんなそう言うけど。でもね、泣くってどういうことかって知ってても、それって涙を流せるのとは違うよね?」
「たしかに」
「誰かを好きになるのはとってもいいことだなんていっときながら、実はだれも愛したことがないって人、いるよね」
「ああ、いるね、そういう人」
「それとおんなじ。エメリーも、『理論上』知ってるだけで、ほんとは何にも分かってないんだよ」
 理論上……ある意味コンピュータらしく、ある意味もっともコンピュータらしくない答えだと思った。たとえば、日ごろ私が使っているパーソナルコンピュータの日本語変換ソフトは、確かに私がキータイプした文字をある程度の正確さで漢字に変換してくれる。けれど、ソフトウェアはデータとして認識はしてくれるが、その言葉を理解してくれているわけではない。つまり、それはその日本語を知ってはいるが、その意味をそのソフト自身が認識して行っているというわけではないと言うことだ。
「あ、そうか。データとして蓄積された言葉の羅列は必ずしも機能そのものであるわけではないね。うーん、奥が深い」
「奥が深いかどうかは分かんないけど、ロボットってみんなが思ってるより、ずっと単純なんだよ」
「あれ? でもさっき、『何が分からないのか分からないのが分からない』って言ってなかった?」
 ふと、思い出して、私はその言葉にたちもどった。今ならその意味が分かる。しかしそれは新しい疑問の出発点にすぎなかった。
 このエメリーというアンドロイドは自分で何をするべきかを決められる能力を持ちあわせていない。だから、人間からの要求がないと身動きが取れない。そして、この子にはそれを推察する能力などある訳がないから人間がどうしたいのかを明示できなければ要求にこたえることができないわけだ。そこまでは理解できた。
 エメリーは自分が理解しえないことを理解しようとする能力を持っていない。つまり、『何が分からないのかが分からない』のだ。ただ……。
「それは、ひょっとすると」
「うん、そう。ほんとは、ちゃんと『気持ち』を理解してあげられるといいのかな」
 そう言って、足元に転がった枝の切れ端を蹴る。
 そう、エメリーが分からないこと。それは、彼女が『人間の役にたちたい』と望むことすらできないことの、ほんのささいなジレンマ。人間の役にたっているかどうかすらもを判定することができなくても、彼女にでも認識できることくらいはあるのだ。
 エメリーは、自分がなにもしていないということを、知っている。
 それなのに、彼女は、その状況を打破するべき方法論を、それを考え出すことを、なにひとつ許されてはいない。
 つまるところ、彼女は人間の為になる何かをしなければならないのに、何をするべきなのかが分からない、なにをするべきなのかの人間からの要求が分からない、そして何より、それをどうしてあげたらいいのかが分からないのだ。彼女自身がさっき言ったように。
 ……やっと気付いた。エメリーが何もしていないわけじゃなかったことに。
「難問だね。きみが抱えてる問題は、きっと、だれもがみんな抱えている問題だと思う」
 私はかぶりを振って、エメリーのジレンマへの回答を探した。
「いい答えを、教えてあげられればいいんだけれど。なにかいい言葉って、ないのかな」
 そうもらすと、エメリーはどういうわけか小さな笑い声を上げた。

 子供たち声が遠くなる。
 青かった空が、いつのまにか夕焼けに染まっていた。
 私はエメリーと一緒に公園の木の下で、必死になって答えを考えた。
 そう、今の時代の人間ならば、たいていの人間ならば、「どうしてほしいの? どうしたいの?」と聞けばたいてい同じ事を答えるだろう。
 エメリーは、その要求にこたえるために、彼女に分かるはずもない難問に、一生懸命取組んでいたのだ。
 私たちが使う、何気ない一言。
「それが分かれば苦労はしない」
 誰かがいったのだろう。だから、エメリーはそれを教えてあげようと、考えていたのだ。
 彼女には、その回答を作り出す能力などはじめからないと分かっているのに。
 それが人間の要求だから。
「だけど、やっぱり結論は一つかないと思う」
 答えは私にも分からなかった。
「きみには分からないってことは、きみが考えるべきことじゃないんだよ、たぶん」
「うん。けど、目の前で“いい言葉ってないかな”って言われちゃったから、エメリーはお手伝いしないとだめなんだよ」
 そんな私に、エメリーはまた笑い声を上げた。
「あ、そうか」
 そんなエメリーに、私も思わす笑みをこぼした。
 何のことはない、私はエメリーのために、エメリーは私のために、日が暮れようとするまで同じことを考えていただけ。どちらかが考えるのを辞めるまで、結局それぞれがそれぞれに考えつづけるところだったらしい。それに気がついた私は、
「考えると頭痛くなりそうだからもうやめた、ありがとうね、エメリー」
 と、笑ってみせた。
「それがいいよ。考えても無駄なこと、エメリーも考えるの嫌い」
 こくん、とエメリーもうなずいた。
「すっかり日も暮れかけちゃったね。それじゃあ、私はそろそろ帰らないと」
「うん、エメリーももう行くね」
 それから、私たちは挨拶を交わした。結局何の解決にもならなかったけれど、気分だけはなんだかすっきりしていた。
「じゃあね」
 そう手を振って。エメリーはどこへ行くのか、歩きはじめた。
 そしてちょっと離れてから、
「それから、うんとね。……ありがと」
 急に振り向いてにっこり笑った。それだけいって、エメリーは走りはじめた。
「え? どういうこと?」
 その背中に声を掛けると。
「だって、エメリーのこと、ロボットのこと、たくさん知りたいって望んでくれたから、たくさん教えてあげたんだもん!」
 振り返らずにエメリーは答えて、ぱたぱたと靴を鳴らして走って行った。
 見えなくなる前に、大きな声で、もう一度だけエメリーは立ち止まり、こっちにむかって手を振った。
「たくさんすること作ってくれて、ほんとにほんとに、ありがとー!」

 ……ぽかんと口を開けている私を残して、エメリーは通りの向こうに見えなくなった。

- End. -


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