がさっ
下草や枝を押し分けつつ前に進むあたし。
やりにくいなぁ…………森の中って。
時々現れるデーモンをへち倒しつつあたしたちは順調に『禁断の森』を進んで
いた。
「この洞窟……なにかありそうね」
地図を眺めてあたしは呟く。
「ありそうなところから行ってみませんか?」
カイが言う。レイも頷いている。
「うん」
あたしは返事をするとまた歩き出した。と─────
「こんにちは」
聞き覚えのない声はとーとつにやってきた。
「誰っ!?」
あたしの声にそいつは姿を現した。
年の頃なら二十歳すぎ。肩当てにマントという典型的な魔導士ルックである。
顔は……まあハンサムかなー、という程度。(レイやカイと比べるのは酷かな)
んで、そいつは冷笑を浮かべながら、
「こんな危ない森に、子どもだけで入っちゃいけないなぁ」
と言った。
こ、子ども……子どもって……あたしたちのことぉ!?
そりゃあ、あんたみたいに歳くったやつからすりゃ子どもかもしんないけどね、
あたしはこれでも15よ15!
軽々しく子ども扱いしないでほしいわっ!
と、あたしが心の中でムカムカを押さえていると、カイはともかく
レイは露骨に不愉快な顔をしているのが分かった。
ま、マヅい。切れるぞ……レイ……
「貴様……魔族だな……」
レイの刺すような声。
そおそお………ってぇ
「魔族?」
あたしは思わず聞き返してしまった。
相手の魔導士は冷笑を絶やさないままでいけしゃーしゃーとこう言った。
「おやぁ。ばれちゃったかぁ。しょーがないなぁ。さては……君も魔族なんじ
ゃあないの? お嬢ちゃん?」
だああっ。レイがぁーっ! レイが怒るーーっ!
「貴様。俺が誰だかわかってんのか?」
こわひよぉ……目がマジだ……
へ?
俺が誰だかって……レイって有名なのかなぁ? 強いことは知ってるけど。
魔導士は、きっ、とレイを睨むとにやりと笑った。
「ふん。どーせどっかの下級魔族だろぉ。俺の足下にも及ばない、な」
イヤミたっぷりに言った魔導士にレイは憐れみにも似た表情をした。
「ふん。あわれな奴だ。俺の名前を教えてやる。俺の名前はレイ。
カミーユとかカミュとか言われたりもするけどな」
へーえ。カミーユ……知らなかっ………
………………………………
んどわぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ!!
かっ、カミーユ……カミーユでレイ………カミーユのレイと言えば――
しかしあたしの内心の動揺をよそに話を進める二人。
「じゃあ、俺の名前を教えてあげようかぁ。俺は、サラー。炎の魔王(エフリ
ート)様の部下である炎の魔族(サラマンダー)様の腹心だ。どぉだ。驚いたか」
レイはサラーを眺めると、面白くもなさそうな顔をした。
「お前がそこまで言うなら俺も教えてやるよ。俺は───炎の魔王、水の魔女
(ウンディーネ)地の悪魔(アース)風の魔人(ジン)の上に立つこの世界の闇
を統べる、闇の中の闇(ダーク・オブ・ダーク)様の直属…………カミーユ=レイだ。
お前、神魔戦争の事を知らないのか?」
サラーの顔が見る間に青ざめていく。
そう、カミーユ=レイとは。伝承にも詠われている神魔戦争で活躍した魔族、
殺戮と破壊と恐怖を司ると言われたほどの実力を持っているのだ。
よーするに魔族の中でも二、三を争うほど強いってこと。
「ま、まさかぁ……あ、ああああああああ!」
サラーはすでに完全な逃げ腰である。
「あんな事を言ったんだ。覚悟はいいな………元々俺は好戦的なんだ」
うってかわり静かなレイの声。
……内容は十分コワいけど……
「ああ……だだぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
わけのわからん悲鳴を上げつつくるりっと身をひるがえすサラー。
と、レイが右手を一閃させる。
細い針がサラーの影に刺さる。
はずれ、ではない。
影縛呪(シャドウ)である。
がぐんっ、とサラーの動きが止まる。
ふいっ、とレイの姿が霞み、サラーの正面に出現した。
空間をわたったの!?
……まあ闇の中の闇の直属ならそれぐらいできるだろーけど……
「くうっ」
呻くサラーの額に冷や汗が浮かぶ。
レイは余裕の笑みを浮かべて言った。
「なら、お前にチャンスをやるよ。……そうだな、お前は逃げても俺と戦ってもいい。
逃げ切れたり俺を倒せたりしたらお前の勝ちだ。俺は本気を出さないで戦ってやる。
どうだ? いやだ、と言ったらもちろんこの場で殺す」
サラーはゆっくりと頷く。
サラーの影に刺さった針を引き抜くレイ。
緊張が場をはしる。
「はぁっ!」
気合いを入れつつレイに魔力弾を放つサラー。
あほかいっ!?
魔族の放つ光弾なのだから、とーぜん魔族にも効くはずだが……
いかんせんサラーとレイでは魔力容量が違いすぎるのだ。
要は、力の差がありすぎて効くわけないのだ。
とは言っても……
ごうんっ
わりと大きな音を立てて光弾が避けもしないレイを直撃する。
だいじょーぶかな? レイ……
それと同時にゆらりっ、と霞むサラーの姿。
ああっ、逃げるかっ!?
賢明な判断である。(根性はカケラも見受けられないが)
爆炎のおさまった後、キズひとつないレイの姿が現れた。
「空間を渡っている奴を追う。この森のどこかに現れるはずだ。
カイ、キラを連れてこい。頼んだっ!」
口早にそう言うとレイの姿も霞む。
レイが消えた後、カイは眼を瞑り早口に祝詞を唱える。
彼の本職は神官。今は辞めているらしいが。
魔族などのいる場所を知ることもできる。(ただしかなりの実力が必要)
しばし待つあたし。
………おなか減ったなぁ………………笑うな、こら。
「キラ」
とーとつに声をかけられてあたしは少し驚く。
「風纏身(ウイング)でぼくの言うとおりに飛んでください。急いでっ!」
「分かったわっ!」
返事をすると高速飛行の術、風纏身の詠唱をする。
「風纏身!」
ぶあっ
風の結界があたしを包む。
カイの手をがしいっ、と握り空中へと浮かんだ。
「どっち!?」
「このまま北へまっすぐっ!」
森の木々すれすれに飛ぶあたしたち。
あたしにも気配が感じられるぐらい近い。
そろそろかっ!
「降りてくださいっ」
カイの声に風纏身を解除する。
短い距離を落下し地面に立つ。
目の前の空間が一瞬霞み、揺らめきサラーが現れる。続いてレイ。
きゅいぃぃいいぃぃぃいん
レイの伸ばした指先に音をたてて光の輪が集まる。
「っ貴様っ、本気を出さないと言ったじゃあないかっ!?」
ほとんど悲鳴の声で叫ぶサラー。
レイがきわめて綺麗ではあるけれど、不愉快そうな顔をする。
「冗談じゃない。この程度で本気だと思ってんのか?」
あの一発でふつーの魔族なら楽に滅びるぐらいの力があるはず。
カミーユ=レイならそれぐらいの力を持っててとーぜんだ。
分かっているのだろーか? サラー……
「死ね」
レイの言葉と共に光の輪はじわりと動きサラーの体にめり込む。
「あひいいいいぃぃっ!」
それまでへたりこんで動けなかったサラーが悲鳴を上げる。
今更情けないぞ、こら。
「俺を倒したければ炎の魔王でも連れて来るんだな。もっとも……それで互角
程度だと思うけど。
さあ、もう終わりだ」
レイが眼を細める。邪悪な感じすらする微笑が浮かび……
ぱしゃああっ
サラーの体が四散する!
緋色をした霞は風に流れ、よどみ、消える。
うーん……なんだかあっけないなー
「悪かったな、足止めして。どうする? これから奥に入るか?」
レイがぱんっぱんっ、と服の埃を払いながら聞く。
「一度村に戻りませんか?」
あたしが口を開くより早くそう言ったのはカイだった。
「ぼくはかなり魔力を魔力を消費してしまいましたし。それになにより……お
昼ご飯食べてないでしょう」
うんうん、カイ君。君は正しい。
「じゃ、焼けてない村へ行くか」
苦笑しつつレイはそう言った。
「ちょっとストップ!」
あたしは二人に制止をかけた。
「あのサラーってヤツ、どーしてこんなとこをウロウロしてたんだと思う?
ひょっとして、アイツが黒幕なんじゃない? 狂暴化の」
「違うな」
あたしのナイスな推理をレイはいともあっさり否定した。
「いいか、デーモンを大量生産するにはどうしても、人間界と魔界をつなぐ門が
必要だ。
その門を作り出せるのは、少なくても四大魔族か四大神族以上の力が必要だ。
そして、神族と魔族のにらみ合いが続いている今、四大魔族も四大神族も
動ける状態ではない。
何か他の理由でうろついていたんだろう」
確かにそー言われてみるとそーよねぇ………
あたしは心の隅にひっかかるものを感じながらとりあえず、『禁断の森』を出ることにした。
「やいやいやい、てめーら。命が惜しけりゃ有り金、全部置いてきな」
ありふれた格好。月並みなセリフ。どこのご家庭にでもいるふつーの盗賊団である。
お昼ご飯を食べた後、森の側を三人でうろうろしていたらこいつらが出てきた。
「ガキ相手に威張ってもしょーがねーが……女だろうとガキだろうと容赦しねえ。さっさと置いてけ」
不景気なんだな。盗賊さんたちまでこんなとこをうろつくなんて。
とまあ、それは置いとくとして……
………ガキ…………ぷちっ………
「ちょっと、あんたたち、だぁれが『ガキ』ですってぇ!?」
ずざざっ
迫力に押され、少しさがる盗賊団。
「……そりゃあ、おまえ……」
めごっ
セリフを最後まで言わないうちにあたしの鉄拳をモロにくらう盗賊その一。
「火炎弾!(ファイヤーボール)」
どごーん
ひとかたまりになっていた盗賊団に唱えておいた火炎弾が炸裂する。
はい、おしまい。
こーして、コゲてぴくぴくしているやつらが残り、後はみんな逃げ出した。
決めポーズをとるあたしの後ろでカイとレイは盗賊団の持ち物をあさっている。
「この大剣(バスタード・ソード)いけそうだ」
「分かりました」
つまり、彼らは剣などに魔法をかけたり、魔法の石(マジック・ストーン)を
埋め込んだりしているのである。
こーして魔法の店などに売ると、けっこー高く売れるのだ、これが。
「どぉ、良さそう?」
あたしは後ろからのぞき込む。
「当分の路銀にはなりそうです。彼らなかなかいい品を持っていましたから」
魔法をかけながら笑うカイ。
「今回……えっと、金貨が八十三枚、銀貨なし。銅貨、十五枚……魔法剣が二
本、鎧なし。後、盾一つ。
魔法の道具(マジック・アイテム)で首飾りがあった」
数え数え言うレイ。
うん、けっこー儲かった。儲かった。もーかったぁ♪
「そうだ、キラ。この首飾りしてみませんか?」
とカイ。
「ふぅーん」
首飾りを手に取りしげしげと眺める。
鎖は銀と魔法銀(ミスリル)の合金だろうか。それ自体魔力を持っているため
か全体が淡く光り、その細かい鎖の先に小さな魔法の石が付いている。
「あたなはただでさえ、防御に不安があるんですからね」
あたしの服装はジーパンに木綿のブラウス。それだけだ。
肩当て(ショルダーガード)なんかをしようかなーなどと思ってみるのだが、なかなかいいのがない。
革製なんかじゃ心配だし……
掘り出し物ないかな……
「分かった。じゃこれしとくね。ありがと」
ちゃっ
小さな音をたててあたしは首飾りを付ける。
「戻ろーか。戦利品売らなきゃなんないし……」
三人ですたすた歩き始める。
暖かい昼下がり。ぼーっと景色なんぞを眺めたい気分になる。
ん?
何だろーか、このぎしぎしいう音は。
レイやカイもまわりを見回している。
「あ、あれ」
カイの指さす方向にあたしも目を向ける。
その先には一つの人影………が何かしている。
……………何してんだろ………………
「木を、切っているみたいですね……」
カイの言うとおり50メートルぐらい離れたところで一人の女の子が木を切っ
ている。
女の子が顔を上げた。『女の子』というには齢をかさねてるけれど、十六、七
ぐらいだろうか。こげ茶の髪をした目の大きいかわいい娘だ。
その娘はあたしたちの姿を見つけたようだ。
あんまり眺めても悪いかなー?
などとあたしが思ったその瞬間、
「ねーねー、君たちぃ」
と言うのーてんきな叫び声が聞こえた。
木を切っている娘だ。
「ちょっと手伝ってくれなーい?」
……どーしよ
「行きますか?」
うーん……
「よし、行こっ」
あたしたちが行くとその娘はにっこりと笑った。
「やーやー。どうもありがとう。ところでここにある木、三本倒そーと思った
んだけどさ、あたし一人だとめんどいから、君たち手伝って」
「よく分かんないけど、倒せばいいのね」
あたしの声でカイが前に出、薄いあの金属板を放つ!
ばたあぁぁああん
いともあっさり倒れる木、三本。
女の子の目が点になってたりする。
「これでいい?」
あたしの問いに女の子はこくこく頷いた。
「あたしは、専業大工のエリザってんだ。本名は月峰エリザ」
木を倒した後、お礼をしたいと言うエリザと一緒に入ったとある喫茶店。
「専業大工……ですか」
カイがぽつりと言う。
別に雰囲気がシリアスなわけじゃない。ただ……
びびっているのだ。エリザの力に。
半抱えもある太い木をひょいひょいと一人で運んでいたのだ、エリザは。
………ただ者じゃないな………
「いやぁ、ずーっとあこがれてたんだ。
特にこのノコギリ刀とか……」
言って腰に付けたノコギリ刀に目をやる。
「ともかくさっきはどーもありがとー」
ぱたぱたと手を振るエリザ。
「改まってお礼言われるほどの事じゃないわよ。
こーしておやつにもありつけたんだし」
言ってオレンジジュースを一口。
「でも、なんであんなとこで木切ってたの?」
あたしはかねてから持っていた疑問を口にした。
「あー、あの辺はいい木が採れるのよねー。この辺を治めてる領主が城を新築
するとかで木を集めてんのよ」
ホットミルクをすすりながらエリザは答えた。
領主の城新築かぁ……
「そーいえばまだ自己紹介してなかったわね。あたしは水彩野キラ。こっちは
妄湖カイ。んでこっちが神世レイ。別に理由もなく旅してるの。
あ、でも今は理由があるわ。デーモン狂暴化を何とかしようと思って」
あたしがとりあえず言い終わると、
「ええっ!?」
すっとんきょうな声でエリザは叫び、あたしの手をがしいぃっ、と握りしめた。
「え? え、どーしたのよ」
うろたえるあたしにエリザは一言
「あたしもいくっ」
………………………………をいこら、ちょっとまてぃ
「ちょっと待ってください!」
その言葉に慌てたのはあたしだけではなかった。
カイも慌てていた。
「レッサーデーモンと言えども相手は魔族。人間とは違うモノたちなんですよ!
そんな危ないことに……」
「いいえっ!」
がたむっ
エリザは強く言って立ち上がった。
そして瞳の中に炎さえゆらめかせつつ
「あたしは行かなきゃなんないのよっ! デーモンの狂暴化で専業大工に珍重
されるあの禁断の森の木が何本も灰になったり使い物になんなくなったんだからっ!
そぉんなこと大工として許しちゃおけないわっ! あたし一人じゃ無理かも
しんないから、今まで行動が起こせなかったけど………
だからお願いっ、あたしを連れてって。足手まといにならないようにするから!」
うーん………そこまで強く言われると困るなぁ。
彼女の実力を見くびっている訳じゃない。ただ……
魔族なんかがでてくると、正直言って気休めにもならないかもしれない。
などとあれこれ悩んでいると、横あいから声がかかった
「悩んでもしょうがないだろ、キラ。要はそいつに覚悟があるかってことになる。
そいつが死ぬかもしれないってことを自分で分かっているなら俺達は構わない」
構うんだよぉぉぉっ! レイぃぃぃぃ! 他人の命だろーがーーーっ!
しかしエリザはあたしの内心の叫びを全くしらず
「ええっ! あたしは命をかけるわっ!」
などと言っている。
ええいっ! もーいいっ
「おばちゃーん、スペシャルオードブルセット追加ねっ!」
「をい……」
大声を張り上げたあたしにエリザは険悪なジト眼を向けた。
まーともかく、エリザとあたしたちは行動を共にすることになった。
心配だよ。あたし。
*第三章へ*