陽の光が眩しく照っていた。
街道沿いにはしる川の水面が光を反射してキラキラと輝いている。
木々の若々しい、それでいて重みのある緑。
真っ青な空には綿雲がぽかりと浮いている。
小鳥のさえずる声、さらさらと流れる水の音。
ぽかぽかと暖かい。
完璧な小春日和である。
「うーん、こりは気持ちいいわ」
誰にともなく言って伸びをする。
春のおひさまと木々の緑に味付けされた空気がおいしい。
食欲もわくってぇもんよ。
「何ぼーっとしてるのー。おーい、キラー」
「ったく……人が雰囲気に浸ってんのに……くぉらっ! エリザっ」
あたしはぼーっとしている間にかなり先に行ってしまった三人を追う。
追いついたあたしは歩みをゆるめる。
「んーっ、ほんとにいい天気よねぇ」
空に浮かぶ綿雲を眺めながらエリザが言う。
「ラルディ・シティまであとどのぐらい?」
地図を眺めているカイに聞く。
「そうですね……午後にはつきますよ」
地図に描かれている街道を指でなぞりながら言う。
「城の新築かぁ。専業大工の腕がなるっ!」
そう、あたしたちが向かっているのはこの辺りを治める領主、グラングヤード
の城下町、ラルディ・シティなのである。
ひょんな事件で知り合った専業大工のエリザの仕事についていくのだ。
何でついていくかって?
やることがないからよ!
なんでもグラングヤードの城を新築するとかで辺りの大工を集めているらしい。
エリザもその一人である。
「でさ、その工事はどのぐらいかかるの?」
「うーん……あたしがやるのは仕上げの辺りだからなぁ……もーあらかたでき
ちゃってるって話だから……そぉねぇ一週間もあればいいはずよ。あ、そうそう
新築記念のパーティーとかやるらしいから」
「ふーん」
全くの他人事としてあたしは頷く。
「ま、早めに行くにこしたことはありませんよ」
横合いからカイの声がかかる。
「ラルディ・シティの辺りの名産品は……葡萄と、淡水魚の『サングラ』……
ふぅん。楽しみだな」
レイが地図を覗き込んで呟く。
「……ねーねー」
と、エリザがあたしの袖をつんつこ引っ張っている。
「何?」
「あのさ、『サングラ』って何?」
「ああ。ラルディ・シティのそばに『アルカンパ』ってぇ湖があるの。
なんでもそこにしか生息してないらしいわよ。すっごくおいしいって」
あたしの最後の一言を聞いてエリザの目の色が変わる。
「ほんとっ!? ほんとーにすっごくおいしいのっ!?」
「うん、おいしいって…………けほっ、こらっ! 人の首しめるなっ!」
首をかっくんかっくん揺さぶられつつ、あたしは返事をする。
「よぉぉっし、名産品ならあちらこちらに売っているはず!
となれば……善は急げよっ!」
何がどう『善』なのかは知らないけれど、言って駆け出そうとするエリザの首根っこを
レイがむんずと掴みぐぐいっと引き寄せた。
「うわっ、な、何するのよっ」
抗議の声を上げるエリザを全く無視するとレイは口を開いた。
「俺は力を押さえるための制御装置を付けることにしたから。そのつもりでいろ」
あたしたちは顔を見合わせる。
「それって、どーゆーこと?」
あたしはレイをまじまじと見つめつつ問いかけた。
「つまり、俺の力がお前ぐらいしか出ないようになるってことだ。
たいしたことじゃないけど」
たいしたことだって。
「レイの力が無いとあるじゃけっこー戦力差大きいんだけどなぁ」
うーん……
ま、レイの気持ちも分かるけど………レイが力を全開にすると、冗談じゃなく街の一つや二つ、
あっさり吹っ飛ぶし………
「でも、制御装置って一体どれなんです?」
カイのうがった意見にあたしはレイを眺める。
外見じゃ変わらないよねぇ……
「これだ」
無造作にレイは腕をまくる。
手首より少し肘よりにはまっている腕輪。
金属だけど……何だろー。これ。
「こいつはオリハルコンでできている。もっとも、いろんな魔法がかかってる」
おりはるこんっ!!?
んなもんなのか、そりは。
オリハルコンとは金属の一種で魔力を封じる力を持っている。
その珍しい性質は魔導士の研究に用いられ、なおかつ大変稀少なので末端ではかなり、
いや、ものすごい値で取引されているのだ。
金銀なんぞとはケタ違い。
もしもタマゴほどのオリハルコンを手に入れたら、裏ルートで交渉してみるといい。
一生遊んで暮らして、オツリが来るほどの値で売れる。
ただしそんなモノを裏ルートで交渉したが最後、一般人なら一発でさようならだ。
よっぽど腕に自身のあるヤツじゃないとそんなモノを持って歩けない。
そういうわけで、思わずレイの腕からむしり取りたくなる衝動を必死でこらえつつ、
「それ、外せるの?」
と問いかける。
「ああ、取り外せる。けど外す必要もないだろう」
うむうむ……ちっ。
今度寝込みでも襲ってやろうと……
「おおっし、ならラルディ・シティへっ」
またまた駆け出すエリザ。
「ぼくたちも行きませんか?」
カイの声にあたしは一つ頷くとエリザに続いて走る。
「おーい、キラーっ。カイーっ! レぇイ!!」
「こぉらっ、エリザっ! 待てっ」
やがて、ラルディ・シティの町並みがあたしたちの目の前に広がってきた。
ラルディ・シティは城下町ということもあってかなり大きな町である。
大通りには店が建ち並び、道端には露店がひしめいている。
綺麗な服を来て往来を行く女の子、それをナンパする男の子。
スリ、かっぱらいは日常茶飯事。
そいつらをどつき倒すのも日常茶飯事♪
「しかし、大工さんがいっぱいねぇ」
あたしの漏らした呟きに大きく頷くレイとカイ。
「そりゃそーよ。城一つ建てるんだもん…………およ?」
ごく当たり前のように言いかけて間の抜けた声を出したエリザの視線を
たどっていくとガラの悪そーな大工さん三人。
『私は力仕事命っっ』と力説しているような風貌。
外見からは『繊細』さだの『でりかしー』などとゆーものはカケラほども感じ
られない。
向こうも視線を感じたかはたと立ち止まる……
失敗すれば問答無用でどつかれる雰囲気……
その途端、
「ダルっ、ビートっ、ガリウスっ! 来てたのねっ」
あたしの隣にいたエリザが大声を上げる。
????
と、立ち止まっていた大工さん達が地響きを上げんばかりの勢いで走ってくる。
反射的に身を退くあたしとレイとカイ。
「姉御ぉ。来てたんですかい?」
は? 姉御?
誰のことでしょう?
エリザか?
「もっちろん。あ、キラ、心配しないで。この人たちあたしの大工仲間。
ダルとビートとガリウスよ。
やー。来てたんだぁ。どーせまた力仕事でしょ」
いたずらっぽく目を光らせたエリザにダルは髪の毛が絶滅している(スキンヘッド?)
の頭を掻きながら照れる。
「ま、そーゆーことですって。全く姉御にはかないやせんなぁ。ところでこの人たちは?
あ、もしかして姉御のイイ人とか?」
………ぷちっ
ダルはこともあろうにあたしのことを指さしたのだ。
イイ人=エリザの彼氏=男!
あたしは女よぉっ!
という抗議の声より早く
どげげしいっ!!
やたらと元気な音をたててあたしの靴底がダルの顔面にめり込む。
「あははー。やだなぁ。ダル、キラは女よ」
のーてんきなエリザの声にダルは真っ赤に腫れた顔をさする。
「それはそーと、なんで『姉御』なの? エリザの方が若いよーな……」
あたしはダルの傍らにいたビートに視線を向ける。
するとビートはやや憮然とした顔をしながら
「あんた知らないのかい? エリザの姉御と言やぁ大工中では超有名。
土台から仕上げまでなんでもOKのすげえお人なんだぜ」
いわれてあたしはしげしげとエリザを見る。
馬鹿力なのは知ってたけどまさかねぇ……
「つーことで姉御は大工中では顔パスなんだ」
いささか得意そうに鼻をうごめかすガリウス。
お前のコトじゃないでしょーが。
「お、もう昼時だな……姉御、どっかのメシ屋にでも入りやせんか? 勘定は
俺達がもつってことで」
ををっ、太っ腹!
ってことは、アレ食べてコレ食べて………ふっふっふっ………
ああ、おごってもらうと普段の三倍は食べられるわよねぇ。
「ならサングラ食べに行きたーい」
言ってダルの腕にしがみつくエリザ。
途端に困ったような顔をする三人。
「姉御、冗談は困りますぜぇ。サングラってのは秋の、それもほんの何週間かしか
現れねぇ幻の珍魚。こんな時節にあるわけねえっすよ」
「すんません。他のもので我慢してくだせえ」
「でも新築パーティーとかで出るかもしれねえっす」
落ち込んでいたエリザは最後の一言で立ち直り、あたしたちはメシ屋へと向かったのだった。
「で、仕事は終わったの?」
厚焼きタマゴをほおばって言うエリザ。
あたしは厚切りのローストハムをつついている。
「ええ、俺達の仕事は終わったけど新築パーティーに出たいからこうしてぶらぶらしてるんっスよ」
ラルディ地方の名産品の葡萄酒をあおりながらちらっとこちらを見るダル。
?何だろ?
「ところで姉御、俺達この人たちの名前とか聞いてねーんだけど」
「ああっ。うっかりしてたわっ」
ぽんっ、と手を打って目をぱちくりするエリザ。
相変わらずぶりっこが上手である。
「ええっと、こっちがキラ。んでこっちがカイ。あっちがレイ。キラはさっきも言ったように
女の子。後の二人は男の子よ」
にっこり解説するエリザ。
その解説に三人の顔色がまともに変わる。
ぎぎいぃっ、とこちらに顔を向ける。
ははぁぁ……さては……
レイの方を目で指しながら
「そっちのレイさんってぇ人は男かい?」
かろうじて声を絞り出す。
「そーよ」
あっさりエリザ。
「てぇことは何か? レイさんってのはカマの字かい?」
こっそりとエリザに言ったつもりだろうが残念なことにしっかりとレイに
聞こえていた。
さぁて……どーなるだろう……
第一、エリザの説明の仕方が悪い。
性別なんざ勝手に思いこませりゃいいのに(あたしは別)わざわざ誤解を
招くよーな説明をするんだもの。
あたしの心配をよそにレイは静かに手を上げる。
ああっ、いきなり殴るかっ!? 制御装置付けてもそれは痛いぞっ!
と、レイはよく通る透き通った声で一声、
「魚料理と肉料理のBコース、それぞれ一つずつ追加」
らっきーっ☆
あたしとエリザは喜んだが(カイも)残りの三人はキュウリも泣いて謝る位、
真っ青になった。
それをレイはちらっと見ると
「ふふん」
うーん、こーゆーのを『真綿で首を絞める』とか『陰険』などというのだろうか。
ま、いっか。あたしはいっぱい食べれるし。
「じゃあ、君の仕事が終わるまでぼくたちはここでのんびりすることにしましょう。
ほかにやることもありませんし……」
カイの言葉にあたしはゆっくりと首を振る。
「何?」
レイが眉をひそめる。
「やることは、あるわ」
ローストチキンを口に押し込みながら神妙に言う。
「一週間も時間があるんだから」
オードブルのカキを一口。
「手始めに今夜、あれをやりましょう」
サンドイッチをかじる。
「キラ……」
レイがそう言ったのはしばらくの沈黙の後だった。
「その言い方じゃ、なんというか……説得力というものがないような気がする」
その言葉に大きく頷く全員。
「あたしはあると思うっ」
そう怒鳴って運ばれてきた魚料理と肉料理をひょいぱく口に運ぶ。
「ま、どうせヒマですし……やってもいいんじゃないですか、あれ」
「あたしもやりたーい!」
こうして『あれ』をやることになったのだった。
「さあ、今夜のために体力付けよーっ」
あたしはところせましと並びまくった料理を端から食べ始めた。
どこかで鳴く虫。
春とはいえひんやりとした空気に身震いをする。
しっとりと夜露が降りた草を踏みながらあたしは街道へと向かった。
街はすっかり寝静まったようで月が家々のシルエットを浮かび上がらせる。
昏い色をした空。漆黒とも言うべき色に満天の星が張り付いている。
ものすげーいいムードである。
街道の脇の小さな林。その入り口に三人は立っていた。
「キラぁ。遅いよぉ」
エリザが不満げに、しかしそれでも声を殺して喋る。
「まーまー、堅いこと言わないで……まだ時間あるわよ」
ぱたぱたと手を振り言うあたし。
「じゃ、そろそろ始めましょうか」
カイの声に一つ頷くあたしたち。
さて、説明しよう。
『あれ』とはあたしたちの音楽会のようなものである。
たまたま四人とも音楽が好きだったためこうしてたまに夜、音楽会をやったりするのだ。
「じゃ、まず俺からだ」
言ってレイは近くの石に腰掛ける。
荷物の中から楽器、レイはハープを取り出す。
なんでも魔族うちでは有名な物らしく、美しい外見とそれに見合った音を出す。
レイの細く、長い指がハープの弦に触れる。
ゆっくりと、ハープが奏でる音色は水が染み込むように夜空に溶け込む。
「では、次はぼくです」
カイは笛を取り出す。
土笛と構造はよく似ているのだがこれは銀製である。しかも同時に二つの音が
出せるので『二重音の銀笛』と呼ばれたりする。(もちろん非売品)
その素朴な音がレイのハープと混じり合い、不思議な旋律を生み出す。
「ヴォーカルは最後にして。次はあたし」
エリザにそう言ってあたしも笛(木製)を唇にあてる。
非常に原始的な造りで単純な笛なのだが魅了のアレンジ版をかけてあるため人を
魅了する妖しい音色が出る。
しかしレイとカイの音に中和されあたしの音は二つの音としっくり合う。
エリザの声域はアルト。少し低めの声で、ゆっくりと歌を紡ぐ。
あたしたちが奏でている曲は『神の歌』と呼ばれる曲で、歌詞の意味は未だに
解らないという不思議な曲なのだがエリザはそれをしっかり歌いこなせるのだ。
この曲、古代遺跡から出土した石板に刻んであったそうだ。余談だが。
全ての旋律が風にのり夜空に広がる。
その音はまるで海に現れ、船乗り達を美しい歌で惑わせる海魔セイレーン。
妖精の谷に住まうラミアの歌声のようである。
うーん……我ながらぱーへくとな演奏………
こーゆーことをしていると必ず誰かが現れるのだが……
美しい音色がぱたりと止む。
「林の中に気配がざっと三十弱……大丈夫です。ただの夜盗ですよ」
「んじゃ、楽器かたずけよーか」
荷物の中に笛をしまう。
岩陰に荷物を隠し、後ろにまわられないよう気配の正面に立つ。
やがて草をざわざわとかき分けながら現れたのは個性もくそもない格好をした
ごくフツーの夜盗。その数三十人弱。
まあどこのご家庭にでもいる、というやつだ。
「大当たり、ね。あいつらの数」
真横にいるカイの顔を見ずに呟く。
「バカにしないでください」
むっとしたようにカイが息を吐く。
「当分、路銀には困らない。ふふっ」
声の主はレイ。捕らぬ狸のなんとか、である。
けれど、あたしたちの前に現れた場合、『捕らぬ』という確率は0に等しい。
あたしたちの前に現れたのが運の尽き! 大人しく路銀置いてきなさいっっ!
………これじゃあたしたちが夜盗ね………
「よぉぉっしゃ! いっちょ暴れて城造りの腕ならしだっ!」
踏みだそうとするエリザを左手で制し向こうが口を開くのを待つ。
「よう、嬢ちゃん達。俺達の前に出てきたからにはもう逃がさねーぜ」
夜盗の親分らしい奴が口上を切る。
たいしたことないや。セリフが月並みだもん。
台詞が月並みな夜盗ほど路銀も少ないのよねぇ………
「林の外で不思議な音が聞こえるから来てみりゃーただのガキじゃねぇか……
とも思ったんだが、どうやら旅人らしいからな。てめーらの持ってる路銀、洗い
ざらいここに出しな。命が惜しけりゃな」
ををう、倒置法ぢゃないかっ!
うーん、こんな奴らの頭の中に詰まっている単語なんて百を越えないだろーと
思ってたのに……
なかなかどうしてこんな表現方法使えるなんてねぇ。
ひょっとしたら意外と金持ちかも!
「あたしたち相手に倒置法を出したことは誉めてあげるわっ」
あたしは夜盗達をびしいっ、と指さしてキッパリと言い放つ。
後ろで誰かがコケる音と
「ねえ、なんだかキラ外れてない?」
だの
「キラの楽しみですよ」
などが聞こえてきたりもするがとりあえずそれは無視。
「でもあたしたちはたとえいくらお金があってもあんた達にまわすお金なんて
ビタ一文も持ってないわっ。しっぽ巻いて逃げるなら今のうちよっ」
もちろん大嘘。
しっぽ巻いて逃げよーが、何巻いて逃げよーが、あたしからは絶対逃げられん。
が、あたしの言葉に親分の顔色が七面鳥も真っ青なほどくるくると変わる。
「くぉの野郎…じゃなくてアマっ、人が下手に出てるのにいい気になりやがって」
いつ下手に出た、いつ?
あたしにはものすげー高ビーに見えたんだが……
全く態度デカいんだから………
「こぉなったら容赦しねぇ! 野郎どもっ! 殺っちまえ!」
ぶっそうかつ平凡なセリフで夜盗達がかかってきた。
うふふ……こーゆーのを見ると……
「爆発陣!(ボムブランド)」
どばーん!
エリザの呪文で吹っ飛ぶ夜盗達。
「火炎弾!(ファイヤーボール)」
「どぅわぁああぁぁっ」
あたしの呪文でコゲる夜盗達。
「凍結弾!(フリーズボール)」
カイの呪文で凍りつく夜盗達。
あ、後ろでレイ寝てる……
かくしてあたしたちは大量の魔法の品を手に入れて、意気揚々と宿屋に帰った
のだった。(夜の十二時ぐらい)
帰ってから部屋のベットに座り込む。
うーみゅ……なんか忘れてるよーな……
「あ、そっか」
思わず独り言。
レイの制御装置についてもっと詳しく教えてもらおうと思ったのだ。
べ、別に盗ろうと思ってるわけじゃないわよ、念のため。
自室のドアに鍵をかけて隣のそのまた隣にあるレイの部屋に向かう。
ここんっ、とノックする。
「レイ、いるの? 入るよ」
ドアノブを回すと鍵はかかってなかった。
不用心を絵に描いたようだなぁ……
部屋の中にレイの姿はない。
「をや?」
部屋の中を見回していたあたしはテーブルの上の物に目をとめる。
グラスが二つ、テーブルの上にのっかっている。
その中には透き通ったピンク色のジュースが入っていた。
底に沈んでいる苺が何ともかわいらしい。
飲んじゃだめかなぁ……
でも二つあるよねっ。
うーん……でもなぁ
迷っていたあたしは思わず右側のグラスを手にとって飲み干してしまった。
おいひい。こりはうまい。
だめだ、だめだと思いつつ左側のグラスも飲み干す。
べりーていすてぃ♪
まろやかなお味☆
その途端、
「キラっ!?」
という澄んだ声が後ろからかかった。
ゆるり、ゆるりと振り向くと想像通りにレイの顔。
「まさかここにあったの飲んでないだろうな」
「てへっ。飲んじゃった」
「馬鹿野郎! あれはアルコール度、九十%のカクテルだっ!」
…………………………………
しえええぇぇぇっ。きゅうじゅっぱーせんとぉぉ!!?
白状するとあたしはアルコールに無茶苦茶弱いのだ。酒乱になったりするわけ
ではないがすぐに眠ってしまう。
それがよりによって九十%! ほとんど純アルじゃないか!!
んなもん飲むなーーーーっ! こののんだくれーーーっ!!
飲んだ瞬間に眼ぇつぶれるわよっっ!!
いくら魔族でもやりすぎよおおおぉぉぉぉぉっっ!
どうなるかは推して知るべし。
結果───
ものの10秒と経たないうちにあたしはすっかり眠り込んでしまったのだった。
「ん…………」
もーろーとしている頭を振る。
うーん……あ、そういえば寝ちゃったんだった。
目を開けたその瞬間、
「だああぁぁっ!」
あたしはものすごくびっくりした。
だ、だって当たり前。目を開けたらレイの顔がいきなりどアップ。
常識として、目が覚めた瞬間に誰かの顔がどアップということはない。
けれどそれはレイがあたしと近距離で眠っていたせいだった……って
近距離……!?
「しええええっっ!」
あたしは思わずレイを張り倒してしまった。
「っ痛」
レイが身を起こしあたしを睨む。
「この状況はいったい何!?」
言ってあたしも起きあがりレイの胸ぐらをひっ掴む。
……予定だったのだが、残念なことに起きた瞬間頭にマグニチュード七ぐらい
の揺れを感じ元の体制に戻ってしまった。
あ…頭が………
「それを聞きたいのはこっちだ。俺の部屋にきて寝たんだから。
お前の部屋には鍵がかかってるし、しょうがないから俺の部屋のベットに寝
かせたんだ。俺も寝るんだからお前と同じベットに入るしかないだろ」
う、そう言われると……
ふ、ふんっ! 床で寝りゃーいいでしょっ!
「あの酒はかなりきついんだ。お前、二杯も飲めば寝るの当たり前だろ」
そりゃあねぇ………九十%だものねぇ………
ふと辺りを見回したあたしは、またまたものすごくびっくりした。
テーブルの上に転がっているのは割とスマートな酒瓶。けれどその数三本!
「ま、まさか……あんたあれを全部?」
「ああ、飲んだよ」
ひえぇぇぇっ。レイって酒豪。ウワバミを越えてるぞ。ワクねワク!
そーいえばろれつはまわっていたものの、瞳の動きがみょーにニブかった。
「でも、一本はお前が飲んだ」
ええっ、あれ一本全部あたしが!? あの二つのグラスにあれ一本!?
よくもまあ、死ななかったものだわ………
「俺はローランが好きだった」
呟くような微かな声でレイが言う。
その一言であたしは目が覚めた。(神族魔族にも性別ってあるんだろうか)
ローラン。神族でありながら魔族のレイとそっくりだった。
神魔戦争以来のレイとのしがらみを引きずり続けていた神族だ。
レイは彼のことを想い出しているのだ。
やっぱり魔族ってよく解らない。
何で、自分の殺した相手に微笑えるんだろう。
レイを見上げるとレイもこっちを見ていた。
「……なんでもない。もう少し寝たほうがいい。夜明けまで間がある」
あたしの髪の毛をくしゃっ、とかきまわして自分も横になった。
静かな寝息をたてているレイの端正な顔を見つめながらあたしは二つのことを考えていた。
(へーわな顔して寝てやがる、こいつ)
一つ、レイの『ローランを愛していた』
それ自体は大したことがないが、なぜあんなことを言ったかが分からない。
二つ、種族の違い。根本の存在意義が違うからなのかもしれないが、人間と
魔族と神族は全くと言っていいほど違うと言うこと。
結局朝までそれを考えていたけれど分からなかった。
ほんの少し何かが見えたような気がしたけれど。
*第二章へ*