「おはよー。キラ。昨日……じゃなくって夜は楽しかったねっ」
したっ、と手を上げひたすら元気なエリザ。
「………おはよー」
イマイチ元気がないあたし。ほぼ一晩中起きていてさらにアルコールを
摂取したためである。
………二日酔いしなくって良かった………
「今日から仕事ですね」
一通り注文をすませ、テーブルにつくとカイが口を開いた。
「うんっ。キラたちはどーする?」
「うーんあたしはお金も入ったことだし買い物でもしようかなーと」
ちなみにダル、ビート、ガリウスは別の宿である。
「うん。それでいいんじゃないの」
おやじさんが料理を運んでくる。しばし沈黙があたしたちを支配する。
「一週間ですか……」
ポツリとカイが呟く。
「おしっ。分かったわっ」
今の言葉で何が分かったかエリザが顔を上げる。
「五日、いえ三日で終わらせるわ。城の工事」
エリザの宣言に驚くあたしたち。
「大丈夫なのか? 三日なんて」
レイの問いかけに自信満々で頷くエリザ。
「あたしの名誉にかけて三日で終わらせる」
エリザはどぉんっ、と胸を叩いてトリさんの煮物をひょいぱく口に運ぶ。
「じゃあぼくたちは暇つぶしでもしていましょう」
「そうね」
一同は朝食を食べることに専念した。
「じゃ、いってきまーす」
部屋から出てきたエリザを見たあたしたちは絶句した。
「ん、どーしたの?」
不思議そうな顔をするエリザ。
「いやー……なんかあんたが大工っぽい格好してたから……」
エリザの普段の格好は、袖を切ったTシャツに半袖の上着、ソフトグローブ、
ホットパンツにロングソックスに赤ヒールのサンダル。頭には赤いバンダナと
いったものである。(ノコギリ刀を付けていなければ盗賊のような)
しかし今の格好は───
ヒールのサンダルではなく地下足袋、ホットパンツは変わらないがTシャツの
代わりに前をあわせる着物風のシャツ、半袖の上着の代わりに紺と白のはっぴ。
どこからどーみても大工さんルックなのだ。
「じゃ頑張ってね」
「おうっ、あ、そーだ買い物するときはおみやげお願いね」
「………あんたなぁ………」
「あははー、じゃそゆことでっ」
人混みに紛れていったエリザの姿を見送るとあたしたちは街の大通りを見物し
ながら歩く。
「またですか……」
カイが苦い顔をして呟く。
カイの視線の先を見ると新聞が落ちている。
この新聞、街ごとに発行しているもので、その街のまわりで起こった事件が刷
られているのだ。
「どれどれ……あ」
ひょいと拾い上げて見てあたしも苦い顔をした。
その新聞の一面に大きく『妖精ラミアの歌声! 伝説の調べ!』ときたもんだ。
もちろんラミアなんかじゃない。ましてやセイレーンなんかじゃ絶対ない。
あたしたちだ。
あたしたちがあれをやると必ず大なり小なり噂がたつのだ。
ま、ばれないからいーけど。
「静かにやったつもりなんだけど……」
これはレイ。気持ちは分かる。
「これは何ですか?」
と、カイが一面の下にある見出しを指さす。
『大工数人行方不明』
どーしたんだろ………いったい。
「だいじょーぶかな? エリザ……心配だな……」
あたしの漏らした呟きにカイはにっこり笑って、
「大丈夫ですよ。まがりなりにも彼女が行方不明にはならないでしょう」
「ん、そりゃまあそーだけど……でもさ……」
「そうだキラ、魔法の店行ってみませんか。なにか掘り出し物があるかも……」
ををっ! 掘り出し物っ!?
なんて甘美なひ び き♪
「よっしゃ、行くわよっ!」
あたしの希望に満ちた表情になぜかカイは眉をひそめつつ、
「さっきまでのは杞憂だったんですかねぇ……」
べちっ
あたしは思わず転んでしまった。
「肩当てか胸当てですか? 在庫を持ってきますからお待ちを」
城下町だというのに魔法の店が一軒しかなかった。のだが………
その一軒に入ってみるとなかなかイイ店だった。
店のオジさんに尋ねてみ、待つことしばし。
ちなみにカイとレイは棚の上の魔法の品を眺めている。
やがて奥から足音が近づいてくる。
「ええと、こちらが胸当てです。はい。これが魔法銀製の物です。
量産されていますが軽くて丈夫と人気があります。お値段も手頃でして。
こちらの物は竜の骨や牙などを加工して造った、言ってみれば竜の鎧です。
欠点は古い物ってコトですかね」
カウンターに乗せられた胸当てをしげしげと見る。
魔法銀製のは割とありがちなので除くとして竜の鎧を手に取ってみる。
やはり傷みが激しいようだ。
ふーむ……イマイチ。
「それで肩当ての方は?」
竜の鎧をどさっと置いて尋ねる。
「ええ、肩当ての方は在庫が一つしかなかったもので……これです」
オジさんが取り出した肩当てを手に取ってみる。
金属のようなものでできている。が、材質はよく解らない。
すべすべとした手触りで色はコゲ茶。
割と地味な造りで、目立つ物と言えば縁取りの魔法銀とはめ込んである
魔法の石のみ。
持ったところはかなり軽く動くときにジャマになることもなさそうだ。
「あのー、これって何でできてるんですか?」
ここんっ、と肩当てを叩いて訊く。
「さーねー、私もよく解らないんですけどねぇ……合成金属らしいですよ」
叩いたときの感触から言ってかなり硬く丈夫そうである。
掘り出し物かも……
ちょうど盗賊さんから取ったお金もあるし。
安く買えたらすぺしゃるラッキー!
「買ってもいーんだけど……うーみゅ………」
さっそく商談。ポイントは相手を焦らすことだ。
「なんだかよく解らないから安くしときますよ」
おおぉぉっし! これはいけるっ!
心の中のドキドキを押さえ、極力れーせーに話を進める。
「どーしよっかなー………うーん、ちょっち金銭上の問題がねぇ………」
まあその辺は省くとして、あたしは掘り出し物の肩当てを手に入れたのだった。
「あー、行方不明事件ならかなり噂になってたわ」
おフロにはいって夕食をとったあといわゆる作戦会議を始めたのだが……
大工さんをたくさん集めているため宿屋は満杯。あたしたちも個室をとるわけ
にいかず四人一部屋という状況に陥ったのだ。(広いしベッドも四つあるからい
ーけど。うーんでもなー……何だかなー)
ちょこんっ、とベッドに腰掛けたエリザは気楽にそう言ったのだった。
「ちょっとエリザ、あんたも大工でしょ。んなに気楽にしてていいの?」
眉をひそめて言うあたしにぱてぱてと手を振りつつ、
「やだなー、あたしが行方不明になんなきゃいいのよ。それに行方不明って言
っても、誘拐とかじゃないだろうし……と も か く、あたしとあたしの現場
の人たちは大丈夫よ」
どーゆー根拠でかしっかりした口調でいうエリザをレイとカイが眺めている。
「行方不明になった大工さんの共通点を捜してみるのは?
そうすればなにか分かるかもしれませんから」
とカイ。
「でも、捜すと言ってもねぇ」
これはあたし。
「そうだ大工さんの名簿があったと思うわっ。それで見ればいいかもしれない」
んでもってエリザ。
「でも、本気で気を付けてよ。何かあったら大変だからさ」
あたしは神妙な顔をして言った。
と、
「明日の朝メシは…………クロワッサンかなぁ……」
「なぁにを言っとるっ、おのれはぁぁぁっ!」
すぱああぁぁぁぁん!
レイの強烈無比にぼけまくった発言に即、あたしは履いていたスリッパで
レイのどたまを張り倒した。
「それでエリザ、仕事はどうですか?」
「そぉね、絶対三日で終わるわ」
向こうで勝手に話を進めるカイとエリザ。(むかっ)
あたしにどつき倒されたレイはもはや眠っている。(むかむかっ)
おまいらはーーっ!!
「わっわっわっ、キラっ、ベット持ち上げないでっ」
「そうですよ。レイも寝てしまったことですしぼくたちも寝ませんか?」
エリザとカイは上着を脱ぐ。
「ま、それもそーね………こらカイ! 向こう向いてなさいよ
あたしとエリザ着替えるんだから」
心持ち赤くなりつつも、向こうを向くカイ。
パジャマを着替え終わり、あたしとエリザはベットに入る。
「おやすみー、エリザ」
「おやすみ、キラ」
「あのー……ぼくもう向いていいですか?」
「あ、いいわよ」
余計なことは考えずに早くねる。
コレが美容の秘訣。
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